◆  ◆  ◆



 天井裏のダクトから、使い魔がブギーモンの部屋へと忍び込む。

 部屋は暗く、ひどく静かだ。──熱源反応は三つ。視認はできないが、部屋の出口付近に集まっていた。
 ……いつも部屋の奥でじっとしていた二人が、何故そこにいるのだろう。使い魔は壁を伝い、移動する。

 出口の側にはガルルモンと、傷が以前より深くなったコロナモンが。
 そして二人の足元には──手足を縛られ翼を砕かれ、頭部を布で巻かれたブギーモンが転がっていた。

『──殺シタのデスか?』

 いや、とガルルモンが首を降る。

「生きてる。データも飛散してないだろう? ……この様子ならしばらく動けない。口にも布を詰めたから、大声も出せないよ」
『……よく行動に移せまシタね。眠りについた所を?』
「…………ああ」

 門番のデジモンが死に、作戦の変更が余儀なくされた。決行は恐らく朝になる事も聞いていた。
 ──ならばもう、大人しく虐げられる理由は無い。何より、このままではコロナモンの身がもたなかった。

『そうデスか。……その場所に置いておくのは危険なので、部屋の奥へ運んで下サイ』

 ガルルモンは言われた通り、ブギーモンを咥えて部屋の一番奥へ運ぶ。もし誰かが部屋に入っても、これならすぐには見つからないだろう。

『あの子達は無事にバルコニーへ到着しまシタ。城内に大きな動きもありまセン』
「わかった。……コロナモン、乗って。あの子たちの所に行こう」
「……うん」

 傷だらけのコロナモンが、力無くガルルモンの背に身を預ける。

「……残った子供たちは……」
『正直に言ッテ、救出は難しいかと』

 結局、収容場所の特定にも至っていない。
 チューモンと使い魔は何度も捜索を試みた。しかし二階は勿論、大人数を隠せそうな広間や礼拝堂にも見当たらなかった。四階に関しては唯一、チューモンが勇気を出して執務室を覗いたが──少なくとも見える範囲にはいなかった。
 ──今の状態でこれ以上、まして四階を探索するのはリスクが高すぎる。

『デスので……お伝えシテいた予定通り、皆様はこのまま脱出。子供達は再度救出を試みる──この方向で進もうかと。問題ありまセンか?』
「……。……蒼太を、花那を……せっかく助かった、あの子たちの友達を……もう、危険に晒したくない。……のが、俺の気持ち……だけど……」
「……ウィッチモン。君が言ったように、『アタリ』の子たちの状態が比較的良いなら……やっぱり、要塞都市に応援を頼むべきだと思う。フェレスモンが戻らないにしても、僕らの戦力で城のデジモン達を相手にするのは──流石に現実的じゃない」

 アタリの子供達には価値がある。適正者とみなされるだけの回路がある。優遇だってされている。殺される可能性は、恐らく低いだろう。
 けれどこちらの子供達は「ハズレ」だ。生かしておく理由が無い。強行すれば殺されるかもしれない。

 ならば自分達は──一人でも多く生き残る道を。
 大切なものを、もう失わない為の道を選びたい。

「戦力を増やして、また戻ろう。僕たちは子供達を絶対、助けに戻る。……コロナモン」
「……ああ、ガルルモン。……わかってる。俺も、それでいい」
『ではすぐに脱出を。ワタクシがナビゲートしマス』

 二人は頷き、息を殺して扉の前へ。
 ガルルモンは鼻先で、そっと扉を押し開けた。──静寂に満ちた廊下に出る。誰かの気配も、においも、近くには感じない。

『各居室内を除き、付近に反応はありまセン。しかし……広間には複数確認できマス』

 バルコニーの真上、城壁を囲うテラスへ出るには、その大広間を経由しなければならない。今いる場所からも、少々距離がある。

「……大丈夫だ。多分、撒くだけなら何とかできる」

 ブギーモン達の飛行能力は、実際のところスピードに特化していない。それはリアルワールドでの戦闘で経験済みだ。
 テラスにさえ出られれば──ブギーモンを回避しながらバルコニーまで降りられるだろう。その点に関してのみ、ガルルモンには自信があった。

 廊下の絨毯を慎重に踏んでいく。音を立てないよう、足早に大広間を目指し──


「────おい!! 要塞都市の天使が向かって来てるらしいぞ!」


 ブギーモンの一人が、部屋から飛び出して叫んだ。



◆  ◆  ◆



「お前ら起きろ! おい!」

 ブギーモンは大声で、他のブギーモン達に呼びかける。

「なんだようるせぇな!」
「要塞都市のデジモンがこの城に攻めてくるんだよ! 俺らが人間捕まえてるのが許せねえって!」
「は!? なんでその情報が外に……───あ?」

 視線がひとつ、ガルルモン達に向けられた。

「……お前ら、確かメトロポリスの……」

 ブギーモン達が、次々と廊下に現れる。

「……まさか、お前ら……メトロポリスじゃなくて、要塞都市から来たんじゃ……」
「違う!! 僕らは──!」
「おい! フーガモンはどこだ! 誰か知らねえか!?」

 今度は二階から、別の個体が声を上げて飛んできた。

「あのクソ野郎どこにいやがんだ!」
「ギャアギャアうるせえ! 今度は何だよ!」
「地下牢が空っぽなんだ!! 柵が壊されてやがる! フーガモンもいねえ!」
「なっ……それ、どういう事だ……!?」

「────ガルルモン!!」

 コロナモンは、もう、嘘も言い訳も効かないと悟る。

「走れ!!」

 ガルルモンは逃げるように駆け出した。その姿を見たブギーモン達は、血相を変えて追いかける。

「侵入者だ! こいつら要塞都市の侵入者だ!」
「全員集めろ! 捕まえて殺せ!」

 背後から怒声が響く。
 こんなにも早く脱獄に気付かれた事も、要塞都市のデジモンが来るという情報が、何故今になって入ってきたのかも──分からない。考える余裕はない。

 そして城内に、警報音が響き渡った。



◆  ◆  ◆



「……──ねえ。これ、何の音……」

 花那は目を見開いたまま、顔を伏せたまま、服の裾を握り締めたまま、──声を震わせる。

「何で……こんな音、鳴ってるの」
「──……気付かれたんだ。俺たちのこと……」
「だって! 逃げてから、まだそんな経ってないのに……!?」
「じゃなきゃこんなサイレン鳴らないだろ!」
「……わ……わたしたちが、フーガモンを……こ……──消しちゃったから、フーガモンが、帰ってこないから……おかしいって、なったのかな……」
「……。……そうだよな。怪しいよな。……オレ、もしかしたら……何とかなるんじゃないかって、思ってたけど……やっぱり、そんなに上手くいかないよな……」

 誠司は笑っていた。乾いた笑いをこぼして、泣いていた。

「……オレたち……死ぬのかな。捕まったら、殺されるのかな……」
「…………チッ!」

 チューモンが舌打ちをしながらナイフを構える。

「──ユキアグモン。氷で滑り台作ってくれ。今すぐ下に降りれば逃げ切れるかもしれない。
 それとウチの足場も頼む。扉の所にだ。開けてきた奴の腕、切り落としてやるからね」
「わがっだ!」
「お前たち、なるべく隅に隠れてるんだよ。道が出来たらすぐ下りて、走って逃げるんだ」

 ユキアグモンは言われた通り、扉の隣に氷の足場を四つ作る。チューモンはナイフを抱えながら、それに飛び乗ろうとした。

 ──その時、城に大きな振動が走る。

「!?」

 足場を踏み外し、チューモンは危うく自身の体を切りそうになってしまった。

「危なっ……何さ今の揺れ!? 地震か!?」
「ぢがう……。今の……城の中がら聞ごえだ……」

 直後。城内から、サイレンとは別の轟音が響く。
 聞こえてくるのは上の階だ。工事現場で何かが壊される音に、よく似ていた。

 三階で、何かが────

「……ね、ねえ……花那ちゃんと、矢車くんのパートナーって……上にいるんだよね……?」

 花那は、震える手で口元を押さえた。

「────私たちが逃げたから……ガルルモンとコロナモン、疑われたんだ……」

 絶対そうだ──そう漏らす声は上擦っていた。

「……私たちのせいだ……!」
「…………ッ」

 蒼太は俯き、拳を握り締めた。短い爪が手のひらに食い込む程に。

 ──結局、自分達は、何をしに此処へ来たのだろう。

 友達を助けたかった。
 戦えもしないのに、彼らがいなければ何もできないのに、この世界について来てしまった。
 ただひたすらに守られて。今でさえ、助けに来てくれることを期待していて。そして結局──自分達が足を引っ張って、彼らを危険に晒したのだ。

 サイレンに混ざって、蒼太の携帯電話が鳴り響く。柚子の声が聞こえてくる。

『──る──、聞こ……る!? コロナ──ガルルモ、が、……』
「……柚子さん……音が途切れて……」
『『ウィッチ──戦っ──、来ら──ない、──……! 皆、先に逃げ──』

 電波が悪いのか、そもそも電波があるのかもわからないが、柚子からの通信はそこで途切れてしまった。

「……」

 ユキアグモンの滑り台は出来上がりつつある。
 城内から聞こえる轟音は、止まらない。

「……チューモン。……そのナイフ、俺に、貸して……」
「…………は?」
「……フーガモンを、倒せたんだから……他のデジモンだって、きっと……」
「……お前がそれをやるの?」
「……」

 チューモンの問いに、蒼太は答えられない。

「……でも、せめて……武器だけでもあれば、力になれるかもしれないだろ……。俺、行ってくるよ……」
「待ってよ蒼太! それだったら……私のが足、速いんだから、渡してくるだけなら私の方が……」
「花那は……お化け屋敷とか、こういう所、怖いだろ……」
「……蒼太だって怖いでしょ……?」
「…………」
「……蒼太が行くなら、私も行く」
「……だめだよ」
「なんで!」
「だってそうしたら……誠司と宮古が……」
「……それは……」
「花那ちゃん」

 手鞠が、花那の背を押した。

「わたしたち、大丈夫だから……。花那ちゃん、友達の……パートナーの所に行ってあげて」
「こ、ここなら見つからないかもしれないしさ……! ユキアグモンとチューモンに守ってもらえるし……それにオレ、先に逃げてるから! 全然、心配しなくていいよ……!」

 わざとらしく目を逸らす誠司に、蒼太は少しだけ笑った。
 ──チューモンはひどく面倒くさそうに舌打ちし、蒼太に渋々ナイフを渡す。

「それが無いとウチも戦えないんだよ」
「……うん。ごめん」
「城の奴がここに着く前に戻って来な。間違っても人質になんかなるんじゃないよ! そしたら本当に見捨てるからね」
「……わかった」
「そーちゃん、村崎……。……気を付けて……」
「……うん。誠司たちも、気を付けて」
「ユキアグモン、その滑り台ちゃんと残しておいてね……!」

 花那と蒼太は深呼吸をする。顔を見合せ、頷いた。
 そして、扉を開けて城内へと戻って行った。


 ──二人の背中を見送りながら、誠司は悲しそうに目線を落とす。

「……捕まったのはオレたちなのに……あいつら最初から助かってたのに……なんで、二人を危険な目に合わせてるんだろうね」
「…………」
 手鞠は何も言えなかった。ただ、俯く事しか。

「……宮古さん。……そこの椅子、座って待ってよっか」
「……海棠くん、逃げないの?」
「さっきのは嘘だよ。さすがにそんなことできないって」
「……あいつら死ぬかもしれないのに、お前たちよく止めなかったね」
「……チューモンだって止めなかったじゃん」
「言っても聞かなかったろうし。会ってたった一日ちょっとだし。……でも二人は違うだろ。死んだらお互い困るんじゃないの」
「…………わたしたちには、止められないよ……」
「……まあ、アンタたちもそうやって残ったんだもんね。待つのはいいけどさ、誰か来たらすぐ下りるよ。ナイフも無いんだ。その時は、ちゃんと言うこと聞いてよね」
「……」

 手鞠と誠司は不安そうに城壁を見上げる。
 ああ、どうか。どうか二人が、パートナー達と戻って来れますように。──どうか、どうか。



◆  ◆  ◆



「──じゃあ、持ち物確認。蒼太から」

 図書室の出口の前で、二人は自身の荷物を確認する。

「……非常灯と、発煙弾と……閃光弾と催涙弾……だと思うけど、非常灯以外はどれがどれだか……」
「同じのが何個も入ってるみたい。使ってみないとわからないね」
「……あとは、この……アンドロモンさんが、俺たちに付けてくれたやつだけど……」
「……武器じゃないけど、近くまで行けばガルルモンたち、助けられるかな。……そのナイフは、蒼太が持つの?」
「……これは、……うん。……きっと何かに使えるから」
「……わかった」
「よし、行こう。ポーチは前に!」
「背中をつかまれないように……!」

 必死に鼓舞し合いながら、二人一緒に扉を開いた。

 サイレンの音が鳴り響く。
 足音が響く。怒声が響く。振動が響く。
 幸い、図書室前の廊下には誰もいない。
 真っ直ぐに走る。目指す先は三階の大広間。そこへ続く階段へ向かう。

「──花那、そこでストップ!」

 突き当たりを右に曲がる、その直前で足を止めた。──そっと覗き込む。ブギーモン達の私室が並ぶ通路には、すでに数体の影があった。

「……ねえ、なんか少なくない? 六十人はいるんじゃなかったっけ?」
「──皆、上に行ってるんだ。きっとコロナモンたちの所だ」
「……私たち、あれに混ざって上に行くの?」
「でも、どっちの階段にも多分いるよ。非常口とか無さそうだし……」
「……どれか武器、使ってみる?」

 蒼太が頷く。荷物の中から、どれが何だかわからない武器を手に取ってみる。──一か八かだった。

「走るタイミング、花那に任せていい?」
「わかった。……行くよ。さん、に、いち──……!」

 花那の合図で駆け出した。

 廊下にはブギーモン──おそらく十体もいない──が、低空飛行で三階を目指していた。
 ブギーモン達は無心だ。誰も後ろを振り返らない。身長の低い子供達など視界にも入らない。侵入者を殺す為、ただ前を向いて進んで行く。

 上からの轟音が足音を掻き消していく。二人はブギーモン達の後をつけるように走った。アンドロモンからもらった武器を、手にしっかりと握り締めながら。

 だが──階段の踊り場まで辿り着いた、その時。
 下の階から上がってきたブギーモンが、二人の存在に気付いてしまう。

「!? おい、お前ら何してる!?」
「「────!!」」
「人間が何でここにいるんだ!?」
「もしかして……アタリから逃げ出したんじゃ……!」

 ブギーモン達は目に見えて狼狽していた。──まさか人間の子供が、あの地下牢からここまで来ているとは思わない。二人が城内の部屋から逃げたのだと勘違いし、顔を真っ青にさせている。

「ま、まずい! アタリだけは逃がしたらまずい……!」
「絶対捕まえろ! 下に行かせるな!」

 二階から一階へ続く階段を、ブギーモン達は壁になって塞いでいく。二人が上の階を目指している等と想像もせずに。

「……! 花那、先に行ってて!」
「何で!?」
「いいから!」

 蒼太は振り返る。ブギーモン達を見下ろし、手が震えるのを必死に耐えて──、

「……アンドロモンさん……!!」

 握り締めた武器を、肉の壁めがけて投げつけた。

 ──放物線を描く球体。
 距離があったせいか、ブギーモン達には届かなかった。けれど彼らの足元に落下した。
 瞬間、衝撃で球体が弾け飛ぶ。みるみるうちに白い煙が立ち上がり、彼らの顔を包んでいく。

「ぎゃあっ!」
「痛え! 目が……!」

 ブギーモン達が苦しみ出した。咳込み、開けられない瞼から涙を流して悶えている。

「……やった……催涙弾だったんだ……!」
「蒼太! 早く!」
「畜生がぁあ!! ぶち殺してやる!」
「やめろ馬鹿! アタリは殺すな! 捕まえろ!」
「誰か窓を割れ! 外に煙だせ!」
「……おい、あいつら何で上に行ってんだ!?」

 子供達はどういう訳か階段を上がっていく。ブギーモン達はその行動が理解できなかった。上の階に脱出路など無いからだ。
 蒼太と花那は走って行く。ブギーモン達の足元を掻い潜っていく。

「何だ!? 足元に何かいたぞ!?」
「おい! 人間だ! 人間が俺達に混ざってる!」
「何でオレらと一緒に走ってんだよ!」
「そっち出口じゃねえぞ!?」
「わかってんの! ほっといてよ! 邪魔しないで!」

 花那が思わず言い返した。

「このガキ口答えしやがって殺してやる!」
「ひっ……」
「花那! 緑色のやつ投げて!!」
「……っ!」

 花那は急いで催涙弾を取り出し、ブギーモン達に向けて投げた。巻き起こる煙に悪魔達の動きが止まる。
 二人は必死に走り抜け、煙を吸わないよう距離を取った。──背後から聞こえる叫び声と怒声。先程撒いたブギーモン達も追ってきているようだ。

 早く着かなければ。追い付かれたら殺される。

「……! そ、蒼太! 今、何か聞こえた!」
「え!?」
「ガルルモンの声……!」

 廊下の先から、ガルルモンの雄叫びが聞こえてきた。ああ、道は間違っていなかったのだ。
 そう安堵したのは一瞬だけ。背後にはブギーモン達が迫っている。早く逃げなければ。速く走らなければ。

 早く、速く、速く、早く、もっと。

「速く……!!」

 花那は全速力だった。今なら陸上競技で先頭に立てると自負する程、今までで一番、死ぬ気で走る。ブギーモン達の足元をすり抜けていく。

「!! 花那、待って……」

 前を走る花那の背中が、ブギーモンの足に隠れて見えなくなる。それまで強気だった蒼太に、一気に不安が押し寄せた。

「待ってよ……!」

 轟音が、雄叫びが、大きくなる。
 ブギーモン達は何かを叫んでいる。
 やがて通路が開けると、扉が見えた。何故かバラバラに壊されていた。

「花那!!」

 蒼太は大広間へ駆け込む。扉の破片に躓きながら。

「コロナモン! ガルルモン!」

 名前を叫んだ。

「……花那……!」

 誰からも、返事がない。
 土埃と轟音の中で、蒼太は必死に状況を視認する。

「……──え?」

 大広間は酷い有様だった。
 壁にはいくつも穴が空いていた。天井の一部が崩れて、灰色の空が顔を見せていた。

 ブギーモン達が、槍と殺意をガルルモンへ向けている。
 見張り台にいたミノタルモンが、ガルルモンに向けて砲撃をしている。
 ウィッチモンの使い魔が、ガルルモンを守るように戦っている。──コロナモンが見当たらない。

 コロナモンを探す。花那を探す。
 広間の隅に、不自然に盛り上がった瓦礫の山を見つける。瓦礫の山の筈なのに、ガルルモンの氷で覆われた空間があった。

 その中で花那が叫んでいる。

「花那」

 瓦礫に躓きながら駆け寄る。
 花那が泣いている。

「────コロナモン」

 コロナモンが横たわっている。

「……あ……」

 その手には、見覚えのある腕輪がはめられていた。
 腕輪はひどく汚れている。
 床が赤く染まっている。
 腕輪の汚れと似た浅黒い液体。
 コロナモンは横たわっている。


 ブギーモンの槍が、その小さな体を貫いていた。


「……ああ……ああああぁ! ああああああっ!!」




◆  ◆  ◆


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