◆  ◆  ◆




 煌々たるふたつ星。

 光芒を描きながら空を昇り、第三階層の天高くで動きを止めた。
 移送機の残骸が、星の周囲をスペースデブリの如く浮遊し始める。

 しかし二柱の獣は、それが何かなど知る由もない。星の輝きを眺める余裕など、彼らには無いのだから。

「──ソルブラスター!! ……っ、また転移を……!」
『向こうだアポロモン! 矢で狙え!!
 ……メルクリモン! ゲートが開くまでコイツ、止めるから……! ライラモンとイグドラシルを連れて行って!』

 騎士は進む。子供達を見失っても尚、止まらない。
 目線の先にはイグドラシルが、花に囚われ眠っているのだ。

「メガシードラモン! アイスリフレクトで自分を守れ! アポロモンの熱に巻き込まれるぞ!」

 無論、騎士とて状況は理解している。
 二人の子供は別の階層に逃れた。しかし今ここで執着する事柄ではない。
 第一に求めるべきはイグドラシルであり、回路はあの二柱の中身を使えば良いのだから。

 究極体への進化、人間がもたらし得る奇跡の可能性。それをこの目で確認できた事は、ある意味で嬉しい誤算とも言える。

「──くそ、くそ……! もっと速く動け、ウチの身体……ッ!」

 ライラモンは必死の様相で高度を上げていく。メガシードラモンは彼女を包むように氷壁を作り続け、僅かでも周囲の攻撃から守ろうとした。

 二人の側には影絵の猫。もうとっくに襤褸切れのようで、形を保つのも精一杯。
 使い魔に充分割けるようなリソースなど、ワイズモンはとっくに持ち合わせていないのだ。

「上の奴がチカチカ邪魔だし……! ちょっと柚子、ありゃ何さ! あれも壊すのかい!?」
『壊さない!! だってあれは……きっとデジコアだから……!』

 ──それって、だれの?
 メガシードラモンが息を切らせながら尋ねた。それに対し柚子は沈黙する。

 けれど黒猫はじっと、空で戦う二人の友を見上げていた。

「「…………」」

 ライラモンとメガシードラモンは、それに何かを察したようで──それ以上は聞かなかった。ただ深く息を吸い込み、目を伏せた。

「……そうか。……──なあ手鞠、悪いけど……やっぱりウチじゃ力不足らしい」

 自嘲気味に呟きながら、仄かに光るデジヴァイスを握り締める。

「……」

 そして──顔を上げた。
 現状を確認。空ではクレニアムモンとアポロモンが拳を交えている。
 メルクリモンの視線はこちらに向けられていた。自分とイグドラシルを連れて行ってくれるつもりだろう。

 ああ、それなら──好都合だ。

「────花那ーーッ!!」

 声を張り上げる。
 嗄れそうな程の大きな声。メルクリモンと花那は思わず目を丸くさせ──見れば、ライラモンが自分達に向け腕を突き上げていた。

 手鞠のデジヴァイスを、高らかに掲げていたのだ。

「……ライラモン……!」
「花那! 蒼太!!
 走ってくれ! あいつらの分まで!!」

 メルクリモンは手を伸ばした。
 こうするべきなのだろうと、お互い、そう思ったから。

『……っ……任せて! アンカーなら得意だから!!』

 ライラモンは願いを、イグドラシルを彼等に託す。
 そのバトンを──花那とメルクリモンは確かに受け取った。身を翻し、空を目指して駆け出した。




『──、──さん、柚子さん!!』

 時を同じくして、亜空間に第二階層からの通信が入る。
 
『聞こえますか! ゲート、抜けました……!』

 手鞠の声だ。柚子は即座に二人の座標を把握し、周囲の電脳生命体の反応──防御機の有無を確認する。

『……防衛機やデジモンの反応はない……動き回って大丈夫!』

 みちるとワトソンの行動には意味がある筈だ。意図は分からないが──とにかく二人を安全圏に送った事には間違いないだろう。

 だが、まだ周囲の状況が確認できていない。
 彼らに付けた使い魔は、その機能を索敵と通信のみに絞られている。ワイズモンのリソース不足が原因だ。おかげで視界は淘汰され使い物にならなかった。

『二人ともそこに何か見える!? 誰かいる!?』
『────……み、“皆”がいます! 柚子さん!』

 その言葉に、柚子は目を見開いた。だって──まさか、それは

『マグナモンさんが言ってた収容室だ! ……最初の牢屋で一緒だった奴もいる!』

 並べられている衛生的なベッドの数々。
 その上で、何に繋がれる訳でもなく子供達は眠っていた。呼吸に合わせて胸部が動き、生きていることが見て分かる。

『そうか……おにーさんたちが、オレたちに……』
『わたしたちに託してくれたことは……!』

 手鞠と誠司は、その光景を見て理解した。
 かけられた言葉の意味を。自分達が、為すべき事を。

『……──皆を起こして! それと人数の把握! 今からそこにリアライズゲート開くよ!!』 
『『はい!!』』

 そこは天上の牢獄。
 遠いオーロラの日、拐われた子供達が眠る場所。

 ふたりの声が、力強く響き渡った。



◆  ◆  ◆




「──イグドラシル」

 燃え盛る炎の中。騎士は、神の光が獣の中へと譲渡された事に気が付いた。
 その瞬間に標的は変えられる。イグドラシルと、二柱の内に在る回路へ。

 身を翻すクレニアムモンの姿を見て、「良かった、これで全力で戦える」と──そう思ったのは他でもない、ライラモンとメガシードラモンだった。

「アイスリフレクト!!」

 ありったけの力を振り絞り、水晶の壁に氷岩を張り巡らせていく。仲間達の足場となるように。

『アポロモン! メルクリモン! あれは貴方達のデジコアです!!』

 襤褸切れの猫が叫んだ。

『確保して下さい! 絶対に!!』

 ──転移した騎士がメルクリモンの上空へ。
 黒紫の腕を伸ばす。ふたつの光球が騎士を飲み、氷岩に激突させた。

「マーブルショット!」
「ソルブラスター!!」

 破裂し、燃え上がる。続けて降り注いだ炎の矢。
 クレニアムモンは片手で盾を生成し無効化する。騎士の背後では氷岩が、砕けた結晶が、溶解し騎士を濡らしていった。

 無効化の三秒が終わり、そして
 
「サンダージャベリン……ッ!」

 騎士の腕に雷光が落とされた。
 これで焼き焦がせたら良かったと、メガシードラモンは歯を食い縛り──しかし自らに言い聞かせる。

 僅かでもいい、注意だけでも逸らせるなら──。

『──八番目の隔壁を解除……! 想定、残り五つ……!』

 無理にでも身体を起こす。転がったままではいられない。氷壁でただ身を守る、そんな事もしていられない。

「メイルシュトローム……!!」

 吹雪を、竜巻を、絞り出す。
 メルクリモンはメガシードラモンの名を叫んだが、風の音で掻き消された。──短剣を握る力が、ぎゅっと強くなる。

「……スピリチャルエンチャント!」
「アロー・オブ・アポロ!!」

 熱も炎も氷も雷も、吹き荒れる全てが水晶群を砕いていった。
 塔ごと崩壊しかねない熱量の中で、騎士は高らかに神の名を呼ぶ。

「嗚呼、イグドラシル! 還りましょう我らが君! 血肉の器、回路の海へ!」

 黒紫は舞う。彼もまた、塔を吹き飛ばしても良いと言わんばかりに。槍で巻き起こす嵐で飲み込んでいく。

「憐れな二柱も器と成ろう! ヒトの回路は溶けて混ざり、やがてひとつに成り果てるなら!」
「「────ッ!」」
『聞くな!! あんなの聞かなくていい!』
『だから止まらないで!!』

 子供達は叫ぶ。パートナーの手を引くように、声をかけ続ける。

『──十番目の隔壁を解除……! もう少しだけ耐えて、お願い……!』

 ワイズモンもまた、天の座への道をひとつずつ繋いでいた。焦げ落ちて骨が露出した指で、セキュリティを次々と突破していく。

『ユズコ、そちらは!?』
『ゲート固定して転送もオートにした! あとは手鞠ちゃんたちに任せる!』
『ではアポロモン達のサポートを! 彼らも無傷ではいられなくなった!』

 ……もしもクレニアムモンのように空間ごと破壊できたなら、また話も変わってくるのだろうか。
 だが現状、アポロモンの太陽球もメルクリモンの短剣も、最上階層への空間には干渉できていない。戦いの最中で穴を空けられる可能性は、残念ながら期待できそうになかった。

『ただ一点に集中させて撃つにしても……その隙にイグドラシルが狙われる……!』

 だから早く。
 早く、もっと早く──。
 焦燥感で吐きそうになる。一枚一枚があまりに重たかった。

 どうか耐え抜いて欲しい。一秒でも長く。
 どうか十三の壁を越えて。一秒でも早く。



 ──そんな彼らを見守るように、ふたつの綺羅星が瞬いている。

「……星に……ちかく、なってきた。ふたりとも……」

 見上げながら、メガシードラモンは更に自身を奮い起たせ──彼もまた騎士を追おうと空を泳ぐ。肉体を蛇行させる度、激痛が襲った。

「それに、クレニアムモンも……!」

 巻き上がる嵐で崩されていく水晶群。上空で折り重なり、物理的な障壁と化していく。
 それでもメルクリモンが空へ駆ければ、クレニアムモンは転移して彼の前に現れて──それをアポロモンが止める。その繰り返しだった。

 騎士はただイグドラシルと、電脳体の中に埋まる回路を狙って。

「────そうた、かな……!」

 奴を止めなければ。
 無理にでも、物理的にでも止めないと。……せめて彼らの“星”が確保できれば、あとは防衛に徹するのみ。そこからはワイズモンがゲートを開けるまでの持久戦だ。

 けれど時間が経てば経つ程、蒼太と花那には危険が及ぶ。リアルワールドに帰れなくなる。
 ああ、もしかしたらもう既に、そうなってしまっているのかもしれない。それでも────

「アロー・オブ……──ッ!」
「エンドワルツ!」

 衝撃波が炎を消し飛ばす。振るわれた槍の先が、アポロモンの胸を切り裂いた。

『蒼太! アポロモン!!』
「ッ……大丈夫! 平気だ!」

 破壊された装甲の奥から紅い血が噴き出していく。アポロモンはその傷を自身の炎で焼き塞いだ。
 槍を回避し距離を取り、メルクリモンを追う騎士に再び狙いを定めていく。

『俺たちが何をされても……言われても! イグドラシルは絶対に渡しちゃダメだからな!!』

 その光景を横目に見ながら、ライラモンはメガシードラモンのもとへ。彼の頭部の外殻を両手で掴み、持ち上げるように力を込めた。彼が飛ぶのを少しでもフォローする為だ。
 水晶の海を泳ぐ度、メガシードラモンは赤い雨を降らせていく。──傷口は、とうに開いていた。

「……ぐっ……ぅ」
「気張りな!! 血が止まらなきゃウチの片腕くらいはくれてやる!」
「……かんがえ、とく……! それと、ライラモン……」

 すると、メガシードラモンは掠れた声でライラモンにある事を伝える。彼の言葉に一瞬、目を見開いたが──二人は互いの目を見て頷き合った。

 少しでも空へ昇りながら、騎士の、仲間達の行動パターンを把握する。
 ──自分達が動けるとしたら、目に追うのもやっとな彼らの攻防の中で見つける、ほんの僅かなタイムラグだけ。

「……あの盾……構えたな。──行ってくる!」
「おねがい……!」

 飛び上がる。背中の花弁が千切れても、アポロモンの熱で焼けようと構わない。ただ、騎士に向かって。

『アポロモン! ライラモンが……!』
「……! 来──」

 来るな、と言おうとした。
 自分の熱波で燃えるかもしれない。巻き込むかもしれない。だから、来るなと。

 だが──向かってくる彼女の表情に、覚悟の色が見えたから。
 アポロモンは彼女を止めなかった。それどころか放つ矢を更に増やし、クレニアムモンの意識を自分に向けようと──。

 ライラモンは両手の花弁から勢い良く蔓を伸ばすと、背後から騎士の脚部に巻き付けていく。
 騎士はその事に気付いたが、目線さえ動かさなかった。仲間の熱で既に焦げ始めた蔓に、向けてやるような意識は無いと──自身のみを盾で守り、距離を取ろうとするメルクリモンに衝撃波を放つ。

『!! メルクリモン待って! 上が崩れ──』
「しまっ……」

 水晶の瓦礫を避けようとした瞬間、暴風の刃がメルクリモンの足首を捉えた。
 腱を切り裂かれ、バランスを崩して落下する。咄嗟に短剣を氷岩に突き刺し、彼の身体がぶらりと浮いた。

「花那!! ──今クレニアムモンに行かれたらまずい!」

 攻撃の手を止めてはならない。騎士が抜け出す隙を与えてはいけない。

「……ごめんライラモン……! 耐えてくれ……!!」

 騎士と瓦礫と氷岩を、繋ぐように巻き付ける蔓は──アポロモンの熱で焼けていく。ライラモンは苦悶にひどく顔を歪めた。

「ッ、……ぁ、ああああ!!」

 ──熱い。痛い。
 耐えろ。焼けたなら新たな蔓を。アポロモンも、きっと分かってくれている。
 急げ、急げ。今の攻撃でメルクリモンのスピードが落ちてしまった。イグドラシルが狙われる。早く──

「昇れ……飛べ! ……っ、来い!!」
「────ドラモンアタック!!」

 下方から勢いをつけて飛び上がった、メガシードラモンは身体をクレニアムモンに激突させた。
 赤い鱗と血飛沫を舞わせながら。突進によるダメージなど皆無だというのに。

 そのままとぐろを巻いて、黒紫の脚部に絡み付く。ライラモンが更に蔦を伸ばし、這わせ、騎士と大海蛇を繋いでいく。

「ライラニードル!!」

 攻撃は頚甲に当たり、固い金属音を空しく立てるだけ。騎士は煩わしそうに舌打ちをしたが、やはりそれ以上は構うこと無く──メルクリモンのもう一方の踵を切り裂く為に槍を翳した。
 吹き荒れる衝撃波。アポロモンが庇うように前に出て、飲み込まれた。それでも余波はメルクリモンに及び、彼は傷付いた側の半身でそれを受ける。

「柚子、ワイズモン! 二人の修復を急げ! ここはウチらが……!」

 そう叫んだ瞬間。「ブチッ」という音が聞こえてきた。
 自身の蔦が千切られた音だ。体液が弾け飛び、鎧に付着していく。

「────愚かな」

 そして、

『……だめだ……ダメだ離れろ! メガシードラモン!!』

 ひどく煩わしそうに、槍が真っ直ぐ振り下ろされた。

「!! ぎ、いぃっ……──! ──ッ!!」

 絡み付く邪魔な肉を削ぎ落とすように、深く、深く。
 鱗を肉を、貫かれていく感覚に、痛みに、メガシードラモンは声にならない絶叫を────堪えていく。
 歯を食いしばって、歯を砕いて、全身を痙攣させて、それでも騎士を締め上げようとした。自らを錘に彼を落とそうと。意地でも二人の傍に転移させまいと。

「……貴様……」
「はーっ、……は、ッ……はな、さない……! ぜったい、行かせない……!!」

 だから振り返るな。助けに来るな。
 そんな事はしなくていい。託した願いを手に、どうか


「「────進め!!!」」














◆  ◆  ◆




 太陽の獣は昇る。
 振り返らずに、高く、高く。

 碧の獣は駆ける。
 傷だらけの足で、前を向いて。

 受け取った思いを胸に。

「────クラウ・ソラス」

 進む。
 
「我が槍よ」

 進む。進んでいく。

 選んだこの道が。この結末が。
 本当に正しかったのかなんて、きっと誰にも分からないまま──。




 最後に、何かが砕けたような音を聞いた。




◆  ◆  ◆





 ──槍を突き刺す瞬間。

 騎士の瞳に閃光が走った。
 どこから放たれたかは分からない。──少なくとも上空からではないだろう。辺り一帯を焼くような、強烈な光だった。

 だが、それは瞬きの間だけ。一秒と経たぬうちにそれは消え、何事も無かったかのようにこれまでの風景が姿を見せる。
 故に気に留める必要はなく、騎士は目線を足元に落として────

 振り下ろした筈の穂先が、絡み付く肉を断ち切っていない事に気付く。

「────」

 振り下ろした筈の、腕が。

「────」
 
 消し飛んでいる事実を、認識できなかった。

「何故」

 今の光は、衝撃は。
 何だったのだろう。

 目線の先、遠く。
 かつて自らが空けた、第二階層との次元の空洞。

 深い深い穴の底。


『────カオス、』


 その場所には一人の男がいた。

 右腕と一体化した熱線銃(ブラスター)を掲げ。
 左腕に白い少女を抱きながら。
 二つの赤いスカーフが揺らめいて。

 二人を包むような──漆黒の翼を広げて。










『────フレア!!!』


 銃口の先、描かれた魔方陣。
 その中心から放たれる破壊の波動。

 閃光が再び空を駆ける。それはクレニアムモンがアヴァロンによる全方位防御を発動するより先に、彼のもう一方の肩を吹き飛ばした。

 そして────

『……──結界が……』

 ワイズモンの瞳が揺れる。
 誰も彼の、彼らの事を視認する事はできなかったが。何が起きたのか、分からなかったが──。

『……割れた……?』

 それは、ほんの僅か。
 手鏡が割れた程度の小ささだった。

 圧縮された高エネルギー波は、第三階層の空間の壁を砕いて──十三番目の防御隔壁の一部を破損させたのだ。

 ──即座に。
 空けられた穴を抉るように、ワイズモンがシステム内へと侵入していく。

『破損によるセキュリティレベルダウン……ファイアウォール突破! ──全ての防御隔壁を解除!!』

 繋いでいく。
 二人分の道を。空の上まで続く道を。

『最上階層へのアクセスを開始します!
 ────空間連結完了! ゲート展開!! 接続座標……イグドラシルの天の座へ!

 デジタルゲート・オープン!!』


 そして、二柱の瞳に、少年と少女の瞳に。
 空一面。どこか懐かしい、オーロラのカーテンが広がっていった。


『────メルクリモン! アポロモン!!』
『行け!! 本当のお前たちを取り戻せ!!』


「掴まれ──ガルルモン!」
「……コロナモン……!」


 伸ばされた手を掴んだ。
 しっかりと握り締め、空へ飛び上がった。

 オーロラの空。小さなふたつ星。
 その輝きに手を伸ばして────。






◆  ◆  ◆




 光の中で夢を見る。

 一瞬のようで、けれど永遠にも感じられた。
 あたたかな何かが、自分の中に溶けていく夢。

 遠く、遠く、置き去りにしていたもの達が。
 ずっと大切にしまわれていた記憶の欠片が。
 揺らめく水の底。繋がって、結ばれて──。

 彼等は思い出す。


「────ああ、そうか」


 優しさも、勇気も、友情も、愛情も。
 悲しみも、憎しみも、苦痛も、後悔も。

 そして──幸せが。
 そこには、確かに在ったのだ。




◆  ◆  ◆




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